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この1冊があれば営業研修はいらない:『Sales is セールス・イズ/今井晶也』

2023年3月20日

いだゆ

長野県出身。関東圏で働くサラリーマン。
明治大学を卒業後、オンワード樫山、ジョンソン・エンド・ジョンソン等に勤務。
趣味は読書(年間200冊ほど)、旅、犬猫。
【Twitter】@tabihonkoe
【Note】https://note.com/yuki423

「営業・販売」で世界は回っている

世の中で最も多い職業は何かといえば、営業・販売の仕事ではないだろうか。
「何かを売る」という活動で世界は回っている、と言っても過言ではない気がする。
イコール、「営業・販売に対するスキルやノウハウ」も、それだけ多くの人に求められている領域ではないかと思う。

私自身も法人営業の仕事をしており、営業に関する書籍はこれまでに何十冊と読んできた。
そんな中、「この1冊だけで良いのではないか」「なんなら、営業研修といった類のものも、この1冊があれば不要ではないか」と思う本に出会った。それが本書だ。

本書は、営業・販売支援を行う「セレブリックス」という企業の執行役員であり、「セールスエバンジェリスト」という肩書の今井晶也氏による著書だ。
そのビジネスモデル上、様々な業種の営業・販売支援をされているそうだが、その膨大な経験則の蓄積が、この1冊に凝縮されている。

若手の方はもちろん、中堅・ベテランの営業パーソンの方も、スキルや考え方の見直しにものすごく役立つ内容だと感じた。

抜き書きメモ

(※個人的なメモのため、一字一句が本文と同じではありません)

私たちは日々、自分が商談したお客様に「なぜ買って頂けなかったのでしょうか?」「どんな場面で『買わない』と決めたのでしょうか?」などと、聞き込みをしては対策を行なっています。

営業職の幸福度を左右するのは「実績」です。

私の実体験からハッキリと言える結論があります。それは、「成果さえ出せば営業パーソンの幸福度はガラリと変わる」ということです。

重要なのは「売れた理由」ではなく「買わない理由」。

売れた理由には、運やタイミングといった「再現できない偶発性」が含まれます。一方で、買わないと決断したお客様には、何かしら「明確な理由」があります。

セレブリックスでは、こうした「買わない理由」を、営業のプロセスで一つずつ細かく排除していきます。

「お客様のお悩みと、商品の効能がフィットしている点」を示すことで、失注する可能性は減らせます。営業プロセスの顧客事例や導入シュミレーションを通じて、具体的な活用イメージを浮かべてもらうのです。

営業を科学し、「成果をコントロール」するカギは再現性です。

頭と時間をかけるのは、あくまで「自分がコントロールできる部分」に絞ってください。

これからはアポの場面や商談の中で、お客様から発せられた「買わない理由」を記録に残すようにしましょう。もし失注しても、「今、ご導入頂けないのはどのような理由でしょうか?」「弊社が選ばれなかった理由を率直に教えてください」と確認してみてください。

営業とは「可能性を見える化」する仕事。

お客様が商品を購入するのは、商品そのものが欲しいのではなく、商品を使って得たい効果や実現したい目的があるはずです。

お客様が契約しているのは「商品」でもなければ「課題解決」でもなく、課題解決ができる「可能性」に契約しているのです。私たち営業パーソンはこの法則を忘れてはいけません。契約は現実世界で行われますが、意思決定は想像の領域で繰り広げられます。

結局のところ、私たちの仕事は、どれだけお客様に「理想実現のために商品を導入したい!」と想像して頂けるかが勝敗を分けるのです。この前提に立つと、私たち営業パーソンがスキルとして磨く必要があるのは、「可能性の見える化」です。

目指すのは、この「可能性の見える化」を商談において実現することです。あなたは商談を通して、その商品を導入する「重要性」と「緊急性」をお客様に発見してもらわなくてはいけません。さらに、いざお客様が購買を検討する段階に入ったら、今度は「実現性の証明(買うと便利になる証拠)」と「自社の競争優位性」を示す必要があるのです。

お客様に可能性を見せられるとっておきの武器として、営業パーソンが普段から頭の中に資料としてストックしておくべきデータは、「顧客事例」です。

お客様は期待や予想といった「実体のないもの」に対して契約するわけです。当然、不安やリスクを考えます。そうした時に、顧客事例はお客様の意思決定を強く後押ししてくれます。

第三者の事例をもとに「御社でも似たようなことはありませんか?」と質問を展開すると、不思議と相手の受け取り方が変わります。「自分たちだけの問題ではないんだ」と知ってもらうことで、本音をさらけ出すことに恥ずかしさや抵抗感が無くなるのです。

営業プロセスの様々なシーンで事例コンテンツは活躍してくれます。例えば、まだ関係が構築できていないお客様との商談なら、ライバル企業や近しい業界の導入事例のさわりを見せるだけでも当事者意識に火がつきます。ヒアリングや質問の場面でも、同じような悩みを抱える企業の事例を挙げると、「実は私たちも…」と本音を明かしてくれます。商談の終盤では、具体的な成功事例や活用事例を伝えることで、「自分たちでもうまく活用できそうだ」と、それまでの不安を払拭する材料にもなります。

私はこれからの営業パーソンは「コンテンツをいかに作れるか」が、勝敗を分けるカギだと思っています。だからこそ「事例ストック」は、ジャンルやカテゴリーごとに、様々な引き出しを持っておくことをオススメします。

その際、効果的だと思うのは、既に同じ商品を利用している取引顧客に取材を申し込むことです。導入目的や選定のポイント、そして生々しい利用方法を聞けば、別のお客様への課題解決策として商品のイメージに奥行きと温度感が備わります。

また、必ずしも商品の導入事例にこだわる必要はありません。商談で聞いた情報や横展開できそうな話題など、営業にまつわる話はすべて事例コンテンツになりえます。

成果のコントロールとは「営業プロセス」のコントロール。

案件管理では、商談を一括りに「受注/失注」とだけ管理してはダメです。案件ごとに「今は営業プロセスのどのフェーズにいるか」「商談に必要な情報は取れているか」「今後、予想される反論材料にどう対処するか」「最終的に受注するために必要な材料とは何か」といった個別の戦略を考えていきます。

「大前提」として知らなくてはいけないのは、商品を必要とする価値は、お客様によって異なるという事実です。デザインに興味のない人に、オシャレさを推しても心が離れるだけ。相手の価値基準に合わせなければ、せっかくの商品の価値が1ミリも伝わりません。

必要なのは、商品の「機能」や「特長」と、お客様にとっての「価値」をハッキリ分けて認識すること。

「機能」「特長」「利点」「効能」は、商品に紐づく情報です。一方で、「価値」とは相手が感じる必要度合いやモノサシであり、あくまで「お客様の課題」に紐づきます。要するに「主語」が違うのです。

お客様を「主語」にして行動する。

営業する上で重要なのは、お客様が価値と感じることを確かめ、「どこまでも価値を満たす」提案をすることです。こうした価値のある提案を実現するためには、日常的に「顧客を主語に寄せる」という意識付けと訓練を行いましょう。

営業が考えるべきは、「売り方」ではなく「(お客様の)買い方」です。

お客様の課題解決を真剣に考えるなら、言うべきことは伝えるという「配慮はするが遠慮はしない」というスタンスが重要です。

営業主導で「課題を見つける」。

営業パーソンこそ「コンサルタント思想を持つべし」。

私はそもそも商談で出てくるお客様の言葉を半信半疑に受け止めています。もちろん話は真剣に聞きますが、一方で「それは本当か?」と、疑いの心を持って事実を確かめるようにしています。

結局のところ、新規営業は解決策を提案する前に勝負が決まっています。解決すべき課題や課題に紐づく「価値」を示すことができるかどうかが重要なのです。お客様の状態をリサーチし、問いや示唆を与えて新たな課題を発見・設定する技術は、コンサルタントに求められる能力そのものです。

これらの観点から、お客様の要望をただ聞くのではなく、「課題を見つけに行く」、あるいは「課題を特定しに行く」という営業主導のスタンスを目指さなくてはいけません。ある意味、営業とは相手の価値基準を「確かめる行為」であると同時に、相手の価値に合わせて情報を加工して提案する「情報加工業」でもあるのです。

私自身、心から営業を楽しめるようになったのは、この情報加工で手応えを感じるようになってからです。商談前の準備やお客様の発言をヒントに、商品情報を加工した「お悩み解決策」を繰り出すわけです。

「コンサルティング」をするために営業パーソンに求められる絶対必要条件は、「商品やサービスの基本情報や付帯情報をきちんと知っていること」です。

これはスキルではなく、意欲と暗記の領域です。まずは、商品の基本的な機能や特長、そして実際にお客様が利用して便利になった活用事例や成功パターンを完璧に言えるようにならなくてはいけません。この点がまだ怪しいという人は、営業テクニックを学んでいる場合ではありません。今すぐ本を閉じて商品理解を深めてください。解決方法を知らなければ価値訴求もコンサルティングもできません。

「社内営業」を重視する。優秀な営業パーソンこそ、周りを上手に巻き込むし、その重要性に気づいています。

「社内営業」は成果を生むための大きなファクターです。

いくつものサポートや協力があって私たちは営業現場に足を運べるのです。

日頃から細かく報告や相談をしていれば、商談や案件の攻略に対して上司の協力を促すことも簡単になります。営業活動において「できる人に協力してもらう」ことは、成果をコントロールする大きなアドバンテージになるはずです。

重要な案件が発生した時、上司は信頼できる人にその案件を託します。つまり、成果をコントロールするためには「いい案件を任される状態を形成しておく」必要があるのです。

ブランド体現者として、お客様と向き合う以上は「自分が最高のセールスパーソン(課題解決パートナー)」だという自覚を持って、営業のステージに上がるようにしましょう。

信用と信頼は違います。信頼は信用を土台に、その積み重ねで築かれるもの。

「何気ない発言」に人間性が出る。

「印象づくりはコミュニケーション戦略」。この事実を理解していない人が本当に多いです。良い印象を持たれることが、どれだけ営業の難易度を下げてくれるのか、その恩恵を知らない人がほとんどです。

あなたは(対面でもオンラインでも)、目の前にいる相手に自分がどのような表情で映っているか、明確に想像できますか?1時間、親しみやすい自然な笑顔でいることはできますか?

印象づくりの本質は「客観視」です。相手にどう見られているか。どう思われたいかをコントロールするのです。これらはセルフブランディングといっても過言ではありません。

「行動量」は常にトップギアに設定する。トップセールスと呼ばれる営業パーソンは、質もさることながら「数」に強い執着を見せます。「量が質を凌駕する」という考えを大切にして、多くのサンプルを集めて自身の仕事を改善する意識を強く持っています。

ただし、トップセールスがこだわる「数」は、闇雲に取り組む数とは異なります。仮説と根拠をもとに、意味のある数や量を増やして、営業活動を通して自分の手法を確かめているのです。

ハイパフォーマンスを発揮する営業パーソンは、組織から課せられた目標よりも高い数値を自分に課しています。そして、目標を具体的な行動に落とし込んで計画を立てます。

会える人ではなく「会うべき人」と商談する。

優秀な営業パーソンは、お客様と対面できる時間(ピュアセールスタイム)の長短が、成果と比例関係にあることを理解しています。

アウトバウンドでの新規営業を行う場合、接触の難易度が高まったとしても、経営の意思決定者やそこに近いポジションにいるキーパーソンに接触し、経営層が持つ課題を特定することにこだわった方が良い。

新規営業では、決裁者・意思決定者の課題に迫れるかどうかが勝敗を分ける。

営業での失注は失敗ではありません。正解に近づくための精査だと考えましょう。

大切なことはニーズのあるお客様を探すこと。すなわち「探客力」です。そして、ニーズのあるタイミングで営業をすることです。

だからターゲットリストのメンテナンスは精魂を込めて行ってください。100時間のリスト作成時間は「投資」ですが、1000時間の間違った営業時間は「浪費」でしかありません。

「営業力」よりも大切なものが「探客力」。トーク術などセールステクニックの習得に時間を割くよりも、「アタックリストのメンテナンス」に時間を投資してください。

ニーズがあるか、もしくは買う可能性があるお客様を探すことの方がずっと重要。

釣りで最も重要なのは、「腹を空かせた魚が集まる場所(魚群)」を見つけること。釣り堀では素人でも釣れるのと一緒です。

お客様理解の解像度を高めたり、真の欲求を掴むことによって、電話やメール、手紙でも「相手をハッとさせられるメッセージ」を届けることができるようになります。

ターゲットリストの重要な4要素
①精度(ニーズと提供価値のマッチング)
②鮮度(タイミング)
③具体性
④絶対数
この4つの要素は本当に大切なので、写真に撮ってPCのデスクトップ画面にして頂きたいくらいです。

精度とは、顧客ニーズと提供価値(商品で提供できること)のマッチングの度合いを表す指標。噛み砕いて言えば、「買ってもらえる可能性が高いリストになっていますか?」ということです。

間違ったリストにアタックすれば、そこで余計な体力や時間を浪費することになります。100時間のリスト作成の時間は「投資」ですが、1000時間の間違った営業時間は「浪費」です。

営業でも「購買可能性が高いタイミング」で営業するのが、成果に最もインパクトを与えます。

例えば「契約更新したばかりで、今年は検討の余地がない」と断られた時。「はい、わかりました」で終わるのではなく、「では、次の更新タイミングはいつですか?」「いつ頃から検討を始めますか?」「サービスを買い替えるとしたら、どんな状況が考えられますか?」という、色んな要素を聞いておくのです。そうすれば、このお客様に営業する「旬な時期」がいつなのかが明確にわかります。

新規営業はある意味、どれだけこのSOL(購買タイミングが明確になった見込み顧客情報)を獲得できるか、生み出すことができるかを競うビジネスだとも言えます。なぜなら、SOLを多く含めたターゲットリストがあれば、あなたは常にどこかの企業にグッドタイミングで営業をかけられるからです。

「営業力よりも探客力」と言われるゆえんです。営業の成否はタイミングを支配できるかどうかにかかっているのです。

日本では「実績不足・事例不足」が導入意思決定の不安要素や買わない理由になってしまう。

皆さんにやってほしいことは2つだけです。それは「先にお客様の役に立つこと」と「購買のタイミングをリサーチすること」です。

アウトバウンドはタイミングが命です。

人は、信じられる人に話を聞いてもらうのは好きですが、知らない人から質問されるのは嫌なのです。そこで重要になるのが「先に役に立つこと」なのです。お客様の関心事や役に立つ情報を「営業側から先に提供」して、信じられる人になる必要があります。

スマート・アウトバウンドでは「プッシュでお客様に役立つ情報をプレゼントし、SOLを得る」というのが狙い。このような、先に役に立って(情報やコンテンツを与えて)、顧客との関係を築いていくセールススタイルを「Giveモデル」と呼んでいます。

「お渡しする資料の内容をお客様向けにカスタマイズしたいので、ただいま1分ほど〇〇様にご質問したいのですが、よろしいでしょうか?」

資料をお渡しすることを約束頂けたお客様なら、そのままヒアリングに移行してもかなりの確率で成功します。私の実感値としては、電話であれば7〜8割はそのままヒアリングに進めます。なぜなら、先に役立つ情報を伝える(Give)ことで、営業側からのお願いをお客様が断ることに抵抗が生じたのです(返報性の原理)。

「今後どのような時期や機会に、検討や情報集めを始めますか?」

SOLが獲得できれば、リストの1件1件に対する個別の営業戦略が、より細かく、よりリアルにアレンジできるはずです。

大切なことは、「お客様に役に立つ必要な情報を届ける」というスタンスです。

「成果のコントロール」とは、すなわち「営業プロセスのコントロール」です。

商談の工程ごとに生まれる「買わない理由」を抑止し、一方で商品を買った未来の可能性を「見える化」してお客様から「合意」や「共感」を得ていく。その積み重ねが、成果のコントロールに繋がるのです。

一度「買わない」と決めたお客様の意思を覆すのは「否定」です。否定をされて喜ぶお客様などいません。だからこそ、お客様が「買わない」と決める前に反論を抑止し、不安材料を解消していくのです。

最強の営業手法「コンサルティングセールス」とは、お客様に代わって「理想の未来を指し示し、取り組むべきことを進言する」スタイルだと覚えましょう。

これは実際によくある話なのですが、営業パーソンがお客様に対して「御社の課題は何ですか?」などと聞いてくるケースがあります。これを聞いた買い手の心情は「知らんがな…」です。

営業パーソンが行うコンサルティングセールスとは、「結果として」課題解決に導くものです。課題を教えてくれと懇願するのは全く別モノなのです。

そもそもなぜ商談が失注するのかを紐解くと、答えはシンプルです。商談のどこかの工程で、「障壁や障害」があるからです。つまり、工程ごとに出てくる「お客様の買わない理由」が受注を妨げています。

商談を一つのイベントと捉えてしまうと、決着がつくまで軌道修正ができなくなってしまいます。受注という成果をコントロールするには、営業プロセスにおける小さな不安要素や反対意見、つまり「買わない理由」を一つずつ取り除く、地道な作業の積み重ねが必要なのです。

セレブリックスではコンサルティングセールスを7つのプロセスに分解しています。
①アカウントプラン
②アプローチ
③ファクトファインディング
④オーダーコントロール
⑤企画作成
⑥プレゼンテーション
⑦クロージング

商談や案件ごとにこのプロセスに沿って、「今はどのフェーズにいるのか?」「どんなステータスなのか?」を明確にしていきます。それぞれの商談において、「買わない理由」を生じさせない進め方や、不安要素が発生した場合の対策を考えて、成果をコントロールしているのです。

反論対策は最後では遅い。「行程ごと」に抑止する。

最終的に目指しているものは、意思決定(クロージング)をする場面でお客様に「買わない理由」がない状態です。そこから逆算すると、7つに分けた営業プロセスで「違和感・不要感・不安感」が残ってはいけません。

プロセスごとに次々と「合意」や「共感」を得ていき、どんどん次のフェーズの商談を進めていくのが、コンサルティングセールスプロセスです。

各プロセスの終盤では「テストクロージング」を行い、常に共感や合意を得られているかを確かめていきます。これが「今、商談をコントロールできているかどうか」を測るモノサシの効果を発揮します。

例えば、「他社よりも高い」という言葉がネックになってしまうのであれば、営業プロセスにおいて「価格を高くしたことによって実現できる提供価値」を解説するなど、納得感のある情報を示す必要があります。

最終的に断られる要素を各フェーズで発生させないよう、常に先手を打つことが重要ですし、仮に障壁や不安要素が発生した場合には、ため込まずにその都度解消を目指すべきです。

お客様は様々なビジネスの悩みを抱えていますが、それらは「認識しているもの/いないもの」に分かれます。

あなたの商談がこれまで刺さらなかった理由は、「お客様の興味のない分野で戦っている」からです。本来すべきは、お客様の側に問題や課題があることを「自覚させるステップ」を作ることなのです。

リードセールスプロセス(アカウントプラン〜オーダーコントロール)では、商品や解決策が優れていることを伝えず、まずは「あなたの理想を実現するためには緊急度と重要度の高い課題がある」という事実を認めてもらわなくてはいけません。

コアセールスプロセス(企画作成〜クロージング)では「この提案がお客様の課題解決に最も適している」ことを納得して頂くのが目的です。

リードセールスの段階で、自社の勝てる領域でお客様の課題を見つけることができれば、コアセールスでは営業スキルに頼ることなく受注できるわけです。

営業において、いつの時代でも揺るぎない事実があります。それは、「お客様は必要なものであれば買う」ということです。

もし、あなたの商品が売れなかったとすれば、それはお客様が必要性を感じていないからです。言い換えるなら、お客様に必要性を感じさせるような「正しい課題」をあなたが設定できていないのです。

新規営業においては、受注と失注を分ける要因の7割は、正しい課題を設定できるかにかかってきます。だからこそ、お客様に課題に気づいてもらう商談の前半、「リードセールス(見込み案件の獲得)」こそ、営業パーソンの腕の見せどころになります。

商談相手のことを調べることは「もはや最低限のマナーである」と胸に刻んでください。

まずは「お客様」の3C分析を行う。

「戦略的アイスブレイク」のポイントは、「世間一般のニュース(天気や景気、時事テーマなど」ではなく、「お客様が主役のニュース」を投げかけること。大切な観点はお客様が「話したくなること」です。一般的な雑談や時事ネタはやめて、「お客様に興味を持つこと」から始めます。

人間的な関係構築や距離感を縮めるための雑談をするのであれば、むしろ商談が終わってからの実施をおすすめしています。

適正なピッチ時間はせいぜい「7分程度」。初回訪問のアプローチで10分以上も一方的に話をするのは、長すぎます。

重要なのは「性格」ではなく「コミュニケーションスタイル」。「DiSC」の4スタイル分類。
D:Dominance/意志が強い
i:Influence/楽観的で社交的
S:Steadiness/思いやり、協力的
C:Conscientiousness/正確な慎重派

「C」スタイルの人はムダなコミュニケーションを好みません。よってアイスブレイクなどはしない方が得策です。営業からすると「つまらなそう」「怒っているよう」と受け取られがちですが、実際にはそのようなことはなく、ただ話や情報に集中しているだけなのです。無言の時間が長く続いても、それは相手が考えている証拠です。その時に営業が余計な情報を与えると、考えるペースを乱された相手は不快に感じやすいです。

営業力の真髄は「課題設定のプロセス」。売れる営業/売れない営業で、最も差がつくのがこの部分です。

ビジネスをしている限り、課題がないお客様などいません。「用意した仮説と質問では、解決すべき課題として設定できませんでした」が正しいのです。

残酷な差を生むファクトファインディング(課題設定力)は、ある意味「究極の営業力」と解釈できるでしょう。

営業でハイパフォーマンスを出す人は、お客様が発言する情報に対して、良い意味で疑いの目を向けています。「実はこの情報はお客様の思い込みなのではないか」「第三者の目線だから気づける課題があるはずだ」と、発言の「裏側」を探っています。

彼らにとってファクトファインディングとは、課題を聞き出すのではなく、「課題を一緒に見つける」という共同作業なのです。その「課題を一緒に見つける」ために必要になるのが、「問いかけによる課題発見」と「傾聴の姿勢」です。

質問することに必死になり、お客様の回答に対して相槌を打ったり返事をしない営業パーソンもたくさんいます。

質問したことへの回答をしっかり受け止めて、その上でボールを返していくのです。その際に、適宜お客様がそのように考えた気持ちや意図に触れていくと、お客様にとって「話を聴いてもらえる人」に近づけるはずです。

「問題」とはうまくいっていないことであり、「放っておくと危険になるネガティブなもの」です。対して「課題」とは、その問題を「解決するために取り組むポジティブなもの」です。

「問題」を「課題」に昇華させることが、営業の「やるべきこと」とも言えます。

・事業理解のステップ
・問題特定のステップ
・課題設定のステップ
この3段階を経て最終的にお客様と合意できれば、ファクトファインディングは成功です。

ファクトファインディングは、セールスプロセスにおいて最も重要。

大切なのは、話した量や時間ではありません。潜在的な事実まで掘り下げ、理想を実現するための真の課題設定ができているかどうかです。

営業にとって「売るための情報(予算感や意思決定者など)」を得ようとすると、お客様の課題発見に関係のない質問を追加することになります。このプロセスではあくまで課題設定のみにフォーカスすべきです。

一方で、お客様にとって課題解決や商品導入が重要なイベントになった後は、細かなことがいくらでも聞けるようになります。むしろ曖昧な情報ではなく正確な情報を得られるようになるはずです。

「意思決定に誰が関わるのか」「意思決定に関わる人にどのように納得して頂くのか」、これらの進め方が見えていないと、商談をコントロールできているとはとても言えません。

「予算はどのくらいありますか?」と無神経に質問するほど、残念な商談の進め方はありません。

攻略情報として、主にリサーチすべきは、
・お客様の「評価/判断」の基準
・決裁者、決裁ルート、登場人物、利害関係者
この2種類です。

営業パーソンは自社の競争優位性や実現性の証明が必要になってきます。そこで、「競合との比較」や「現状と比較した際の選定基準」「過去の発注内容から考えて、どこを重視するのか?」といった情報を知っておくと、この後の商談をコントロールしやすくなるのです。

「どのような点で評価をするのか?」という基準を知ることで、お客様にとって最適な提案となるように、提案内容を「加工」できるようになります。それだけでなく、この商談の意思決定者や決定までのルート、「この商品の導入決定に誰がどう関わり、どのタイミングで影響してくるか?」を把握します。

商談相手に「社内推進者(キーパーソン)」として上司などを説得してもらう必要がある。

全ての利害関係者に「必要なサービスや課題解決である」というジャッジをしてもらうために、「この後、社内でどのように利害関係者をコントロールするか」を(社内推進者と)一緒に考えなければいけない。

そもそも、なぜ「鶴の一声」が起きるのかと言えば、「営業が決裁者や上位役職者と接触できてない」「決裁者の意向を押さえていない」という2つのケースがほとんど。

商談相手をいかに「パートナー」にできるかがカギになります。

お客様にとっての理想の購買とは、課題解決に繋がる最適な商品を導入して「今よりもっと便利になる」ことです。

営業の提案次第で、お客様には素晴らしい未来が生まれます。

お客様の「買わない理由」が無くなれば、契約という結果は当然のように付いてきます。

コンサルティングセールスプロセスの後半にあたる「コアセールス」で重要になるのが、「競争優位性」と「実現性の証明」です。

ここで競争するのは、必ずしもライバルとは限りません。むしろ、最も導入の意思決定にブレーキをかけるのは、「現状維持がいちばん安心」というバイアスです。

過去に私が提案したお客様に、「タイトルを見た時点で、何らかの発注をお願いしたいと思いました」と言って頂いたくらい、提案書のタイトル(ネーミング)は重要です。
(例:「安心・安全と聞いて、お客様から一番初めに想起される会社へ〜消費者からの信頼獲得とリスクコントロールをセキュリティで実現する〜」)

営業とは「情報加工業」でもあります。商品の機能や特長を全て説明するのではなく、その企業に必要な「贅肉を削ぎ落とした状態」にして、シンプルなメッセージにしていきます。

ここでの競争優位性とは、ライバル商品に対して優れた機能を列挙するのではありません。あくまでお客様の課題とフィットした優位点に「絞って」伝えます。何でもできるは、何もできないのと一緒です。情報を限定するのは勇気がいりますが、機能や特長を全てさらけ出すのではなく、「マッチングさせる」意識を持ちましょう。

受注の可能性が考えられない企業に提案書を作成するのは時間のムダです。「顧客の本質的な課題解決につながるか」「実現性の証明や競争優位性を担保できるか」と、十分に考えた上で、提案書作成に進まなければ意味がありません。

プレゼンテーションをする上で最初に意識すべきなのは、相手によって想定している課題や関心事が異なることです。「誰」を対象に、「どんな目的」で実施するかによって、プレゼンテーションにおけるスポットライトの当て方が変わるのです。商談前には必ず、誰が参加するのか確認をとっておきましょう。

質疑応答のとき「何か質問はありますか?」と聞くだけでは本音は出てきません。「導入して実際に利用するとしたら、現時点で不安に感じることはなんですか?」「現段階では、意思決定をするうえでどんな障害がありますか?」というように、できるだけ具体的に聞く。

実は、案件の受注確度を決める「仕上げ」は、クロージングではなく、プレゼンテーションの最後に行う「テストクロージング」だと言えます。

このテストクロージングで行うべき「仕上げ」の内容とは、以下の3つ。
・商談相手が現時点で「導入したい」度合いを高める
・今後の意思決定のステップを把握する
・この後に発生する可能性のある導入障壁を把握する

優れた営業パーソンは、お客様が稟議に使う補足資料や上申資料を代わりに作成して、受注確度をコントロールします。

売り手にとっても買い手にとっても目的のない体験プロセス(デモ)は、意思決定の方向性を迷走させます。

営業にとっては大イベントでも、お客様にとっては商談の検討は数ある「タスクの一つ」であり、「忘れている」こともある。もしお客様からの連絡が遅れたら、催促をするのではなく、あくまで「多忙なお客様をサポートする」という意識で確認を取ることです。その上で受注まで確実に仕上げる意識を持って進めてください。

推奨する進め方としては、クロージング時に「ご検討状況を確かめる連絡は差し上げてもよろしいですか?その際は電話やメールであればどの方法がよろしいですか?」と、定期連絡に対する合意を得ておきましょう。

営業が目指すクロージングは、「説得」ではなく「納得」です。

失注は「宝の山」です。失注の理由や原因を捉えることができれば、同じ理由で失注する可能性を減らす対策が取れます。「買わない」を科学することで、成功の再現性が高まるのです。

失注で大切なのは、「精査」をして同じ失敗をしない機会に変えることです。ここで重要なのは「お客様から買わない理由を聞く合意」を事前に取っておくこと。お客様にとっては購買や検討のイベントが終わると、選ばなかった企業への関心は一気に薄まります。その段階でヒアリングしようとしても、答えてもらえないケースが多くなります。

「今回ご検討頂くうえで、もしお見送りや別会社を利用される場合はその理由を教えて頂けませんか?時期を改めての提案や、御社に定期的にお届けしたい情報を知るためにも、ぜひご協力をお願いします」。そんな一言があるかどうかで、お客様の回答率は変わってきます。

こうした「買わない理由」をこまめに集めて営業戦略や戦術に反映させることが、成果のコントロールに繋がっていくのです。

営業としての真の価値は、売った後に発揮されます。自分の提案に責任を全うするのが営業としての正義であり品位と言えます。

営業にとって究極のアドバンテージとは、お客様にとっての「指名枠」を獲得することです。困ったら最初に頼ってもらえるよき理解者であり、相談相手になることが競争力を生みます。

そのためには信頼されなければなりません。しかし、信頼は1日では醸成できません。営業は売ってからの関わり方で「特別」になれるかどうかが変わります。

顧客エンゲージメントで最も重要なのは、カスタマーサクセスという考え方です。つまり、商品やサービスを買って使うことで「実際に問題が解消し、課題が解決された」という体験や実績を提供できているかどうか。

基本的にお客様は、「便利になる、問題を解決する」ために商品を買っています。全ての商品提供や営業行為が顧客の成功体験に基づいていなければなりません。カスタマーサクセスに繋がる提案をするのは、全営業パーソンにとって「正義」なのです。

顧客エンゲージメントが高まれば、営業パーソンは大きな恩恵を受けられます。お客様にとって「特別」になれることが、最もわかりやすいアドバンテージです。「特定の分野で何か困りごとが出たら、誰よりも先に相談する」というポジションは、営業としては無敵です。お客様の利用満足度が高ければ高いほど、リピート購入や顧客紹介に派生する可能性が高まります。

口コミ重視という考え方はB to Bでも急速に浸透しています。ソーシャルセリングやリファラル(紹介)営業が注目されている現在の購買環境では、「いい噂」と「悪い噂」が営業成果に大きく影響するのです。つまり、ご購入頂いたお客様にどのような体験を与えられたかによって、次の案件獲得や攻略を難しくすることも簡単にすることもできるのです。

「法人営業の醍醐味は、選んでくれた購買担当者を昇進させること」。企業の問題点が「購買によって」解決されれば、購買担当者や導入推進者の評価にも繋がります。

営業成果をコントロールするための、一つの案件獲得経路として、購買担当者と関係を持ち続けるのは非常に大切な考えです。

何よりも、お客様にとって「意味ある存在」として、営業である私たちがお客様の記憶に残ることは、単純な業績や売上では表現できない、やりがいやモチベーションに繋がります。本来、営業とは購買者と直接接点が持てる立場にいるので、「介在価値」を最も身近に感じることができる職業なのです。

購買者にとって商品を買うこと自体に大した意味はありません。購買はイベントであり、活用するのは日常です。買うことで目的が達成されることはほとんどなく、購買は問題解決のための「きっかけ」にすぎないのです。一方でカスタマーサクセスは日常に存在します。商品やサービスを導入して、実際に日常のビジネスにおいて問題や課題解決に繋げなければいけません。

カスタマーサクセスはあなた(営業)の仕事です。お客様が利用する姿や便利になる姿を想像して提案し、委ねるものではなく「繋ぐもの」だと胸に刻んでください。

営業は「専門職」であり、「技術職」です。商品を利用した課題解決、言葉を用いた行動変容、これらは専門知識が求められる技術です。

AIやテクノロジーが発達している今の時代こそ、「人には人にしかできない仕事」が求められます。それこそまさに、言葉を扱う仕事、関係を築く仕事、つまり営業職なのではないでしょうか?

良い営業は、本質的な課題を捉え最適な提案を実施することでしょう。そうすることで、「買って便利になった」というお客様を増やせます。買って便利になったお客様はビジネスを成功させ、得た利益を使って更なる投資をします。こうした購買の連鎖を起こして、経済活動をより大きなものにシフトしていきます。

実践しては振り返り、毎日「一つでもできるようになったこと」をノートに書き綴っていき、気がつけば私のノートはコントロールできるようになった技術で埋め尽くされ、できたことやできなかったことを再び言語化することで、自分の言葉で人に伝えられるようになった。

まとめ

本書を読み、内容を実践し始めた。
すると何が起こったか。自分でも少し驚いているが、日々の営業活動が、確実に楽しくなった。
本書で書かれているように、営業は「専門職」であり「技術職」だ。
その誇りを胸に、これからも精進していきたいと思った。

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いだゆ

長野県出身。関東圏で働くサラリーマン。
明治大学を卒業後、オンワード樫山、ジョンソン・エンド・ジョンソン等に勤務。
趣味は読書(年間200冊ほど)、旅、犬猫。
【Twitter】@tabihonkoe
【Note】https://note.com/yuki423

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